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『多喜さん詩集』

 投稿者:やす  投稿日:2013年 7月19日(金)09時53分23秒
  通報 編集済
   詩集をお送りした方々から少しづつ受領のお便りを頂戴してをります。普段はSNSでやりとりしてゐる方からも、郵便で礼儀をつくされるのは嬉しいことです。
 またお返しに新刊本をお送り頂きました方々には、ここにても厚く御礼を申し上げます。ありがたうございました。

 サイト関連の詩書では、金沢の亀鳴屋、勝井隆則様から頂いた新刊詩集『多喜さん詩集』(外村彰編)に感銘しました。『井上多喜三郎全集』も『近江の詩人 井上多喜三郎』も、それから詩人に宛てた『高祖保書簡集』も職場の図書館へ寄贈してしまって、手許には詩人に関する本が一冊もなくなってしまったので、此度の選詩集は末永く愛蔵します。またそのやうに手許におきたい手触りやサイズは、限定本出版をこととする亀鳴屋が常に心掛けてゐるところ、このたびも詩人と編者と刊行者とのいみじい三位一体の産物であります。披けば巻頭の、詩人が縁側で和んでゐる写真、そして詩篇では選者の眼のつけどころでせうか、小動物によせるユーモア・ペーソスがなんともいへません。

 井上多喜三郎(1902-1966)は、高祖保や田中冬二と親近してゐたといふことからも分かるやうに、堀口大学の『月下の一群』初版1925新編再版1928刊行時にリアルタイムで決定的な影響を受けた(「四季」で育った詩人達よりはやや先輩の、)知的抒情詩をものした詩人、そして木下夕爾同様、家業のために田舎に隠棲を余儀なくされた典型的なマイナーポエットの一人です。戦前は作品よりも地方発の瀟洒な装釘の刊行物で書痴詩人たちを喜び驚かす趣味的なディレッタントとしての位置づけに甘んじた詩人ですが、過酷なシベリア抑留体験を経て詩風が変貌。それが批評精神を身に帯びた戦後現代詩風にではなく、人柄も変わらぬまま優しさを帯び、人間の懐が深くなったところを示して、詩人として一皮むけたのは稀有のことに思ひます。若年には彼を苦しめただらう地方暮らしも、抒情全否定の中央詩壇から遠ざかる環境として彼を守りました。
 昭和41年に突然みまった輪禍、関西詩壇の重鎮に推されるのは時間の問題だった詩人の早すぎる死を、コルボウ詩話会、近江詩人会にあった天野忠から田中克己 をはじめ、様々な詩風の多くの詩人達が悼みました。詩作品に先行してその人柄が、地域の人々に、そして詩壇の気難しい誰彼からも愛された詩人の作品集は、どれもこれも極少部数の限定版ばかりでしたが、今、現代の読者に愛されるための詩集が、資料的な側面の強い全詩集とは別に一冊、彼の造本センスを襲った姿を得て世に送り出されたことに、慶びを申し上げる次第です。ありがたうございました。

  犬

炎天の道の辺で
うんこをしている犬

少しばかりのぞいているのだが
うんこはかたくて なかなかでてこない

彼はうらめしそうに 蝶々をながめながら
排泄と取り組んでいた



  慣

雄鶏の首をひねる
ぎょろりと目をむいているそいつの 羽毛をむしる
じゃけんになれたそのしぐさ

手にあまった抵抗が
急に抜ける
私はとまどう
神さまこれでよいのでしょうか

雌鶏たちは
相かわらず玉子を産んでいる



  夕

ときどき山雨(やませ)がゆきすぎる
竹樋が咳をする

捻飴(ねじりあめ)のようにでてくる水だ
ちよっぴり苔のにおいがする

水溜には豆腐が泳いでいた




『多喜さん詩集』井上多喜三郎  外村彰 編
15.2cm 並製 糸かがり 208頁 限定536部 1600円(税・送料別)
 
 
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