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紫野京子様より詩集『切り岸まで』の御恵贈に与りました。
内容・装丁とも温雅な佇ひに、抒情詩の看板を掲げる同人誌「季」の年輪を感じる思ひを深くし、表題詩ほか、全体にmortalityや言葉のもどかしさを訴へる観念を主調音としてをり、かうした観念を表現したマチエールに関しては、現代詩詩人の皆さんの評価が別に存するものと思はれますが、私からはいちばんに感じ入った次の一篇を紹介させていただきます。
夏の庭で
真夏の日差しを避けて
石燈籠のなかで
野良猫がお昼寝
風が吹くと
ゆらゆらと合歓の木が揺れる
薔薇色の糸のような花びらがかがやく
影もない真昼
蟻だけが乾いた地面を這う
枝垂れ桜の緑の葉の下影で
蓮はひっそりと
咲くための準備をしている
生きている今だけを
生き物たちは繋いでいる
実に9冊目の詩集とのことですが、著者にとって詩集を出版することは、また新しい自分の可能性に向き合ふよろこびと畏れを感じたいがためである旨。不断に脱皮し続けるバイタリティーに感服です。
ここにても御出版のお慶びとともに御礼申し上げます。ありがたうございました。
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