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流浪の民

 投稿者:やす  投稿日:2015年12月 8日(火)21時46分8秒
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   杉原千畝の映画を観てきました。第二次世界大戦当時、ナチスの迫害から逃れるため、唯一の経路国となった日本の通過ビザを取得せんと、領事館に殺到したユダヤ人たちに対し、国外退去の寸前までビザの発給をしつづけた外交官。いまや郷土岐阜県出身を超えて日本の偉人として有名になりましたが、彼が生存中だったわが中学高校時代を通じ、社会科政経の授業でその名を聞いたことはありませんでした。戦後の長い黙殺期間はもちろん、まして戦前にその名を現在称へられてゐる業績において知る者など、なかったのではないでしょうか。

 映画としての出来はともかく(演出をもっとあざとくやってほしかった)、ビザを手にした人々のその後、特に日本に渡るまでに尚いくたりかの(といふか日本人の意識の上にあった)善意を経なければならなかったことが描かれてゐたのは勉強になりました。ドイツと同盟を結んでゐた当時、難民の彼らははたしてどんな風に庶民には映ってゐたのでしょう。敦賀からユダヤ人協会のあった神戸に移動した彼らの姿が、『四季』同人だった竹中郁の目で次のやうに描かれてゐます。


 流浪の民
        竹中 郁 詩集『龍骨』(昭和19年)所載

西伯利亜(シベリア)鉄道は色んなものを運んでくる
曰く云ひ難いものに混つて
頬鬚を生やした亡命ユダヤ人の群を
どつさり日本へ運んでくる

かれらは町の安レストオランに屯する
帽手と外套とがひどく汚れてゐる
給仕がにこりともせず料理の皿を突出す
大きな鷲鼻が迂散くささうにそれを嗅ぐ

五千弗もつてゐてもユダヤ人だし
二弗しかなくつてもユダヤ人なのだ
かれらの寝てゆく船室はとても足りないし
それに上陸を許してくれる国がとんとない

英艦フツド號が撃沈された日
僕の友人がドイツ語で話しかけたら
神戸は動物園が仲々いいですなあと
噛んで吐き出すやうに答へた



 戦後ならばどんな風に糊塗した書き方もできましょう。戦時中に書かれたことが重要であり貴重です。詩集『龍骨』は昭和19年、湯川弘文堂で竹中郁の企画によって生まれた「新詩叢書」の一冊であり、時局柄どの本にも「戦争詩」が掲げられてゐます。杉原千畝も体制内のひとなので、規則の拡大解釈のかぎりを尽くして人道支援に努めたことでしょうが、戦時中に書かれた戦争詩についても、こめられた諷意が、詩集に一緒に収められた詩篇によって図らずも読み解かれる、といふやうなこともあるやうな気がします。
 
 
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