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『詩人のポケット』『初めての扁桃腺摘出術』

 投稿者:やす  投稿日:2015年12月26日(土)14時48分1秒
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  先般の『感泣亭秋報』10号で名を連ねさせて頂いた小笠原眞様に拙詩集をお送りしたところ、折り返し有難い御感想と一緒に、御詩集『初めての扁桃腺摘出術』および詩論集『詩人のポケット』の御寄贈に与りました。ここにても厚く御礼を申し上げます。

『詩人のポケット』は、中村俊亮/藤岡保男/山之口獏/平田俊子/天野忠/圓子哲雄/田村隆一/泉谷明/金子光晴/井川博年/黒田三郎を論じた詩論集。挙げられた11人が中央・地方、名の大小に拘らず、皆これまでの詩生活に影響を与へてきた詩人からすぐられたものであるだけに、対象への愛にあふれ、評論であると同時に著者自らの詩人としての個性をも多角的に表明してゐる一冊であると感じました。雑誌『朔』の連載は読んでゐたはずですが、かうしてまとまったものを拝読してみると、姿勢(気質)によるスタイルの統一感(これは詩集を一貫して編年体で解説するところにも表れてゐます)が感じられます。それで、賛同を禁じ得ぬ評言に信を置き、別の詩人への称賛についてもその開陳に耳傾ける――こんな具合にして、わが現代詩アレルギーの蒙も一枚位は剥がされたやうな感じがしてゐます。

現代詩アレルギー――戦後詩がなぜ私の中へすんなりと入ってこないのかといふことについては、もはやあきらめてゐたことですが、歴史や伝統からの断絶から出発した戦後詩人たちに対する拒否反応が、時代を下って世代替はりをし、その因果色を薄めようとも、食物アレルギーレベルで抜きがたく私の感性に根を張ってゐるからのやうであり、詩法から云へば、四季派の詩人たちに象徴されるやうな、精神を収斂させ観照をこととするのではなく、詩人の方便で精神を拡散させてゆく詩作に付いてゆけない不器用さが蟠ってあるからかもしれません。しかし此度の機会をいただかなければ、このままこのさきも知らずに熄んだ詩篇の数々との出会ひがあり、現代詩の食はず嫌ひぶりに今さらながら呆れもしたことでありました。

本書に取り上げられてゐる山之口獏や天野忠は好きな詩人ですし、その延長上にいただいた詩集『初めての扁桃腺摘出術』を置き、いくつかの詩篇を味はふことができました。四季派を継ぐ『朔』の主宰者、圓子哲雄氏の詩と詩歴も的確に解説されてをり、結局私の抒情世界の方が狭くて、小笠原様が見渡される詩の地平のなかにすっぽり包摂されてゐるといふことを意味してゐるのですが、これは昔、四季派・日本浪曼派に対する鋭い指摘に感じ入りながら、戦後現代詩の魅力は全く伝はってこなかった大岡信氏の詩論集を読んだときにも感じた経験であり、さきの『感泣亭秋報』に於いても小山正孝の戦後詩を論ずることができなかった原因でもありました。


さて色んなタイプの詩が混在し、著者自ら「正にごった煮の闇鍋状態」と称する第5詩集『初めての扁桃腺摘出術』ですが、申し上げたやうに、ユーモアを大切にし、実生活に密着した詩篇に連なるジャンルの御作を、私自身はたのしませてもらひましたが、作者がどの種のものを詩人の本懐と目されてゐるかはよくわかりません。詩論集のラインナップを眺めれば、どれもが愛ほしいジャンルであるに違ひなく、モダニズムの横溢する作品あり、医学用語の頻出する作品あり、むしろその方が素人にも分かりやすく手引きされてゐたり、表紙の奇矯なデザインもどうやらユーモアに拠るらしいこと、また詩篇ラストの一言・一節には、杉山平一先生が自作詩でよく弁明された、作者の依怙地なヒューマニズムへの拘りをも感じさせてくれた、そんな読後感がありました。「今まで詩集に載せていなかった詩篇を掻き集め」と謙遜されるものの、医師として観ずる人の命と、家族として接する肉親の死と、斯様な立場でなければ書けない詩が収められた一冊であり、現在母を介護するわが立場からもいろいろと考へさせる詩集であります。「死を目前として生きることの本当の辛さを/僕は本当のところ分かってはいないのです。」といふ一句には釘付けにされました。


また舟山逸子様よりは『季』102号の寄贈にも与りました。精神的支柱であった杉山平一先生が居なくなっただけに、少人数同人誌の存在意義があらためて問はれてゐる気がいたしました。今回ただひとり、同人の新刊レビューをものされた矢野敏行さんが、後記の中で「団塊」といふ言葉に対し自嘲気味の嫌悪感を示されのは、図らずも象徴的な出来事だったやうにも思はれたことです。

ことほど左様に自分もふくめ、周りすべての事象に高齢化を感じ、考へさせられることばかりが続いた一年でした。あかるい兆しが戻ってくることを祈らずには居られません。

合せて御礼申し上げます。ありがたうございました。
 
 
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