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「特別展 詩人・一戸謙三」

 投稿者:中嶋康博  投稿日:2019年 8月 1日(木)20時57分48秒
  通報 編集済
 
 みなさん、一戸謙三といふ詩人を御存知でしょうか。モダニズム詩人たちのメッカ『椎の木』の同人だったこともある詩人で、いまは地元青森にて高木恭造とともに「方言詩人」として認知されてゐます。

 Facebook・twitterで報知済みですが、この夏、青森県立近代文学館にて「特別展 詩人・一戸謙三」が催され、その詩と詩人について私が講演をさせていただくことになりました。

 私は津軽弁がわかりませんので、彼の「方言詩以外の詩」についてお話することになってゐます。

 以下に、時間の関係で省略することになった【前段 詩人紹介】について掲げます(現代仮名遣い)。

 興味を持たれた皆様には『図録』を手にとっていただきたく、またお近くの方にはぜひ特別展をご覧いただきましたら幸甚です。
 

【前段 詩人紹介】

「ありがとうございます。さて、この地元でも一戸謙三という詩人は一般には、さきほど申し上げましたように、御当地津軽弁の「方言詩」によって認知されている訳でして、「方言詩」といえば、皆さんもご存じの、高木恭造の詩集『まるめろ』が全国では有名なんですが、本題に入る前に、今日はお話ししないこの「方言詩」に絡んで、詩人としての一戸謙三の評価について、最初に触れておきたいと思います。

 方言詩というのは、方言ならではのニュアンスを声で伝える「朗読詩」であるというところに一番の特徴があります。つまり一般に詩を読むという行為──「詩集」に印刷された活字を黙読する普通の読書とは違って、「朗読詩」を読むという行為には、演劇性があるんですね。それで津軽方言詩が、物珍しい一種の「劇」のように、朗読会やレコードを通じて、地元青森県人だけでなく、津軽弁を解さない都会の人たち、そして日ごろ文学に親しむことのない人たちに対しても非常な注目を集めた、ということがあったと思います。

 高木恭造は、方言詩でデビューを飾った詩人ですが、実はその後はずっと方言詩からは遠ざかっていて、もうすっかり忘れられた頃に、詩壇の外から注目されました。いま申し上げた「朗読詩」によって、東京でカルチャーショック的に有名になり、昭和40年代の、フォークソングを始めとするアングラ文化を担う若者たちの支持を得て、晩年をにぎやかに送ることが出来た詩人でした。

 本日お話する一戸謙三はというと、一緒に彼の方言詩も見直されたということはあったと思っていますが、そういう場を避けて、敢えて「朗読詩」のブームには乗らなかった詩人です。

 そして一戸謙三にしても高木恭造にしても、ふるさとで方言詩が詩碑にまで刻まれるという栄誉をこうむっているんですが、実はお二人とも一連の方言詩とは別にですね、共通語で書いたすぐれた抒情詩と前衛詩とを公にしております。【※】

 このことは、ブームを起こした高木恭造自身が、朗読会の会場で「『まるめろ』以後の作品が全く顧みられない」と嘆いているんですが、みなさんあまりご存じない。

 もっと言えば一戸謙三は、高木恭造とは異なり、そもそも方言詩を書いて出発した詩人ではありませんでした。

 今日はそのことをお話しするわけですけれども、一戸謙三も、詩人としての最初の詩集は、先ほど申し上げましたが方言だけで書かれた『ねぷた』という名前の詩集です。昭和11年に刊行しております。読んで頂いた、「街道端(きゃどばだ)ね埃(ゴミ)かぶて、それでも咲エでる茨(バラ)の花(ハナコ)」という詩。当時の彼は、

「私が方言詩を書くまで十数年の間に、約二百篇位の詩を書いていたが、それらの作品全部と、このつまらない津軽弁の詩の試作とがつり合うとまで考えはじめていた。」

 なんて思っていたそうです。「このつまらない津軽弁の詩」というのは、それだけ自信を以て臨んでいる、という裏返しの表現です。しかし方言詩については坂口昌明先生も「一般読者が合点するには山菜を調理する程度の根気が要るのはやむを得ない」と、認めておられますが、よその地域の人にはなかなかわからない。私も『ねぷた』は友達に譲ってしまいましたし、高木恭造が遺した津軽弁による朗読を聴きましたが、かみしめるような調子に感じ入ったものの、如何せん単語がわかりませんから、それ以上は踏み込めない。やはりそれなりの経験が必要だな、と観念したことであります。

 そしてこれが肝心なんですが、一戸謙三は高木恭造とは違って、それまでに書いてきた、方言詩以外の沢山の詩に「詩集」という形を与えて出版することを、そのときしなかったのですね。

 さらに方言詩も作るのをやめてしまって、戦争がはじまるとすべての詩の発表を中断して沈黙してしまうのです。ふたたびペンを執るのは戦後になってからでした。

 戦後になってようやく彼は、自分が納得のゆくように、自撰詩集を二度編んでいるんですが、その際に、自分の詩作を「○○時代」「○○時代」という風に名前を付けて整理して、それぞれの時代に数編づつの作品しか残しませんでした。昭和40年代になると日本は出版ブームを迎えるんですが、戦前に活躍した多くの詩人のようには『全詩集』は作られなかった。彼は自分の『全詩集』というものに興味がなかったようです。

 いさぎよいと言えばそれまでですが、二度の自撰詩集では同じ作品を選んでおります。「自分の魂の遍歴は、これだけ集めてあれば理解されると思う」なんて書いている。そしてそれを補うかの様に、589回にも上る新聞の連載「不断亭雑記」で、自らの詩的生涯を回想をしている訳ですけれど※、詩人というのはやはり「詩集」という宝石箱の中に詩を遺さないと、人々の記憶に残らない。星も星座図のなかに所を得てはじめて名前が覚えられます。個々の作品が単品で輝き続けるというのはなかなか難しいんですね。

 これが「実像」に比較して、小さく偏った文学史的評価に、詩人一戸謙三が甘んじなくてはならなくなった一番の原因だと思います。

 そして詩人が亡くなって30年も経ってからのことになりますが、詩誌『朔』の特集号の中で坂口先生が、謙三の自撰詩集には出来の良い作品がごっそり削られていることを指摘して、たいへん惜しまれた。おなじ津軽詩人の高木恭造と較べ、不当な評価が定着していることについても疑問を呈された。

 その理由として坂口先生は、一戸謙三という詩人のことを「地方人といっても資質は都市的で、芸術性への志向が強かった。(み‐231p)」また「詩人として非常に高いレベルにいた人なので、理解者が少なかったということが案外大きいと思う。」「そうすると人間というのは、自分はこれでいいのか、と自分を疑いだす、それで、絶えず自分の作品を創り直したり、或いはなきものにしたり(『探珠』100号‐7p)」したのではないか。」そう仰言っています。

 私も、彼がことあるごとに、自分の詩歴を整理して語ることを好んだことについては、思うことがあります。

 地元詩壇で陣頭に立っていた彼には、対外的な意識が強かったこと、そして、地方在住の詩人は中央から批評されることが少なく、自分たちが起こした運動については自ら解説せざるを得なかった、そういう事情があったのではないか。「これだけ残せばあとはいい」といういさぎよさは、自覚的な詩作を続けた一戸謙三らしい、詩人としての自負の表れだったように、私には思われます

 そしていつの時代も地元新聞が彼に発表の場所を与えてくれていたこと――これは今回この詩人のことを調べながら思ったことですが、青森人の、地元文化を応援しようという思いが、今に至るまでまことに厚いことに驚いています。逆に言えば、その居心地の良さが彼をして地元に安住させたと、いえないこともないのですが、文学館のない東海地方の人間からすれば、これは本当に羨ましく思ったところです。

 本日は方言詩の意義や鑑賞は前回の工藤正廣先生の文学講座におまかせしましたので、それでは謙三の方言詩以外の詩について、それらがどんなものであったか、書かれた背景と変遷とを順番にたどって参りたいと思います。」
 
 
2019年8月18日(日曜日)13:00~15:00

会場:青森県総合社会教育センター2F大研修室(青森県立図書館となり)

〇講演と朗読 「詩人一戸謙三の軌跡方言詩の前後をよみとく」

講演:中嶋康博 朗読:大川原儀明氏(「あおもりボイスラボ」代表) 稲葉千秋氏(青森朝日放送アナウンサー)



『特別展 詩人・一戸謙三』図録(価格1200円)

<目次>

 開催に当たって
02一戸謙三の詩の魅力について   静かで豊かな時間感覚がそこにある・・・藤田晴央
04詩の産声(1899~1919年)
06閉ざされたページ(1920~1922年)
08地方主義の旗のもとに(1923~1932年)
10「イダコとタユ」─盟友齋藤吉彦との最後の一齣─・・・一戸晃
12津軽方言詩の開花(1933~1937年)
14津軽方言詩論争・・・櫛引洋一
16詩の音楽性を求めて(1938~1955年)
18一戸謙三のモダニズム詩──総括と転身と・・・中嶋康博
20茨の花(1956~1979年)
22新しい方言詩の道をたずねて・・・工藤正廣
24一戸謙三略年譜・・・青森県近代文学館編
28母ふきに抱かれた幼い謙三1899(明治32)年ごろ
29遺品 30書画 31作詞・受賞 32顕彰等 協力者

問い合わせは、青森県近代文学館:bgk@plib.pref.aomori.lg.jpまで。

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