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【テキスト起こし】『明治百家文選』序

 投稿者:中嶋康博  投稿日:2020年 5月13日(水)21時17分45秒
  通報 編集済
   『明治百家文選』 隆文館, 明治39年(1906) 9月刊

 序

 不薄今人愛古人、清詞麗句必爲隣(※李白)。千秋の公論、実に此に在り。古今相及ばずとなす勿れ。孔子の聖、猶ほ且つ後生畏るべしといはずや。乃ち知る、かの徒らに故を悦んで、新に即く能はざるものは、眞に弱者、未だ與に語るに足らざるを。
 これを刻下の世に見るに、諸種の文體、紛然雑出、互に其の長を競ひ、殆んど適従するところを知らざるが如しと雖も、融會貫通、渾然一となる、亦た必ず其日あるべく、而して、熙朝の文章、百代に傳ふべきもの、豈に遂に出でずして止まむや。その未だ然らざるは、氣運なほ熟せざるが故のみ。若し既往の事、果して来者を卜すべくむば、勢の赴くところ、断じて、此の如くあるべきこと、智者を待つて後に知らざるなり。
 文を學ぶ、必ず先づ標的を定めざるべからず。その法たるや、今人、名あるものの中、わが性の最も近きを擇び、その得意の作、數篇を取り、文法の在るところに就いて縷陳して分析し、しかる後、心を潜めて誦讀し、久うして已まざれば、文氣自然に我が胸臆の間に浸潤し、筆端遂に窘束せず、操縦自在、はじめて能く堂に上るべし。ここに於て、更に其源に遡り、古今を兼綜し、観るところ愈よ廣く、且つ愈よ精に、悉く諸家の長所を併せ集めて之を大成すれば、やがて模倣より獨創を出し、遂に一家の特色を發揮するを得べく、その欲するところ、之に投じて意の如くならざるなきに至らむ。作文の秘訣、更に他法なし。而して、この特に今人を先として古人を後にするは、たとへば、高枝攀ぢ難く、低花折り易きの類、力を勞すること少く、得るところ多きが故のみ。
 この書、収載するところ、現代名家の文、凡そ百篇。捜羅未だ至らず、或は碔砆(※珠に似た石)を珠玉となし、累を作者に及ぼすを恐るもの、時に之なき能はずと雖も、これを一概して、深思極構の作、初學これに熟せば、その自ら文を為(つく)る、古様の監鹹、時に入らざるの迂をなすことなく、聲響歩趨を模するの餘、善く法度に循ひ、幸に倒行逆施の弊に陥るなきに庶幾(ちか)からむか。
 若し夫れ編纂その他に就いては、學弟河井君の咀華を勞すること最も多く、予は大體に於て指畫を與へしに過ぎず。これ其名を掲げ、特に謝意を表すると云爾(しかいふ)。

 明治三十九年九月上澣  久保天随

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