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『復刻版 パストラル詩社通信』

 投稿者:中嶋康博  投稿日:2020年 9月 9日(水)16時12分31秒
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 青森での講演から1年経ちましたが、詩人一戸謙三の伝記資料冊子10冊の刊行を果たしたお孫さんである晃氏よりは、あれ以降も引き続き、詩人に関する考察とフィールドワークを交へた「資料報告」を頂いてをります。本日は断続的に発行されてゐる『探珠 玲』別冊より、『復刻版 パストラル詩社通信』(2020.9.9 A413p)のご紹介。

 大正時代、歌壇が主流だった弘前の文芸壇に、口語自由詩の新風を吹き入れる役割を果たした青森県初の詩社、パストラル詩社。

 現在、全集本などにはよく、編集雑記などが刷られた数枚の紙片が「〇〇通信」なんていふ名で栞として挟み込まれてゐますが、大正9年の時点でこの「パストラル詩社通信」はその走りとでもいへましょうか。ただし購読者に対してでなく同人限定に向けた通信文の刷物なので「会報」といった方がいいかもしれません。

 ただし面白いのは編集者の櫻庭芳露から一戸玲太郎への通信文が、そのままガリ版で刷られ、会員にも共有されるといふ趣向です。

 そして編集方からの通信であるとともに、詩社の精神的支柱だった福士幸次郎をフィーチャーすることで、すなわち櫻庭・一戸の二人と、その先生とが実質的に運営していることを示す、パストラル詩社の性格をよくあらわした刷物であることに資料的な意義を感じます。

 内容は編集者の櫻庭芳露から同人への連絡事項で主に占められてゐますが、申し上げたやうに毎号の巻頭、ネジ巻き役である東京在住の福士幸次郎から届いた「通信」、檄やら言ひ訳やらの手紙の文章が掲げられてをり、ことにも最初に同人全員に対して食らはした

「諸君の内から取り得るものは僅かしかない」

の一発目はガツンと効いてゐます。民謡・童謡を「詩」とは認めず、青年詩人に対していましめたところにも見識を感じます。中央では、お仲間世代である佐藤惣之助や西條八十が、かうした作詞で世俗的に売れはじめてをり、青森にも安易に手を付けたい誘惑にかられる若者がゐたことをこの文面は示してをり、たいへん興味深いです。

 (我が郷土岐阜はその点、田舎の紅灯観光地ですから、青年詩人達がこぞって創作民謡にあてられてしまひ、親分として佐藤惣之助のことを、アンデパンダン詩社「詩の家」主宰者でなく民謡調の大家として奉戴する同人誌『詩魔』詩壇が形成され、自由詩が(芸術派もプロ派も)全く振るふことがありませんでしたから。)

 ガリ版の文面写真が載ってゐますが、できれば各号の全体の形姿と共に、詳しい書誌も記されるとよかったです。

 定期的に送って頂くA4に綴じられた「資料通信」を読みつつ、自身で継続中の日記翻刻作業も髣髴され、晃様の地道な営為のさまがしのばれます。資料を寄贈した先の弘前市郷土文学館でも、かうした営為をむだにせず、原画像と共に翻刻資料の公開を考へても面白いことかと思ったことです。

 ここにてもお礼を申し上げます。ありがとうございます。

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