teacup. [ 掲示板 ] [ 掲示板作成 ] [ 有料掲示板 ] [ ブログ ]

新着順:5/824 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

『詩と思想』2020年11月号 「特集四季派の遺伝子」

 投稿者:中嶋康博  投稿日:2021年 4月12日(月)19時14分5秒
  通報 編集済
   旧臘より気になってゐた雑誌の特集号をやうやく閲読、編集の指揮を執られた小川英晴氏の“立原道造愛”を核として初めて成った特集であることが端々に感じられる一冊でした。

 執筆陣のなかでは、四季派の存在意義を現在最も説得力を以て語ることが出来る論客、國中治氏の一文が相変はらず鋭い一矢を放ってをります。

 戦後“四季派批判”を担った現代詩詩人達にわだかまった「自分達の問題意識が一般読者ばかりか、よりによって若き表現者たちにさえ」共有されない苛立ちと焦躁について。
 すなはち一言で云へば、いつまで経っても四季派の詩人の人気が衰へないことについて。
 その根拠を、彼ら批判者達が始祖として仰いだ萩原朔太郎の

「野放図と言えるほどの先鋭大胆な詩的言語の開拓」
「詩の沃土は沃土にはちがいないが不安定極まりなく、そのままでは朔太郎にしか歩くことが出来ない狷介な荒蕪地」

を、他の誰でもない彼らが目の敵にした三好達治が均して、口語自由詩の表現を現在あるやうな実のあるものに定着させていったのではないか、といふ直球を投げ、
 しかも戦争詩を書いた彼が精神的な耄碌に堕したとならば、どうして再びこんな作品が書けるのか、と戦後の作品「風の中に」を挙げて、これを

「『荒地』の詩群のなかに置かれたとしても読者に違和感を与えないだろう」

といふ見通しと共に述べる、話を逸らさぬ明快さ。

 立論は当時の詩に現れる「鳥籠」を象徴的に解釈しつつ説明されてゆきますが、その自由の制限者でもあり得、安息の保護者でもあり得る「鳥籠」とは、私の四季派に関する持論の、口語自由詩に必要な制約(定型のフレームのみならず、箱庭世界の創造だったり、時代の圧力さへも含む)なんだらう、とも思ったことです。

 そのほか、昨今の異常気象により自然現象としての四季の喪失から『四季』の存在意義を問うてゆく問題意識なんていふのは、特集の理由としては実に現代的で面白く思ったものの、そのことについて深く論及する文章がなかったことは残念でした。

 何より目玉であるはずの「対談」ですが、ただ現代詩詩人として有名であるといふだけで、四季派の抒情を全く認めない荒川洋治氏を相手に呼ぶといふ人選には疑問を感じました。
 また「鼎談」に於いても『四季』の詩人達に詳しい人が誰も参加しない会話に肩透かしを食らひました。

 荒川氏は新刊『江戸漢詩選』のレビューも新聞に書いてをられますが(毎日2021.4.3)、四季派同様、本場中国の漢詩と異なり反権威・反体制を事としない江戸時代の漢詩について、氏のやうな詩人が好意的な書評を書かされること自体、笑止であるし(梗概と解説のはしりを抄して後は自己の読書歴に紐づけて述べ、穏当に「これで勘弁下さい」といふ感じ)、ジャーナリズムが認める伝統的な抒情詩人の空位を、それこそ自然現象としての四季の喪失と同じ次元で考へさせられてしまったことでした。

 ただ立原道造も伊東静雄も田中冬二も認めぬ荒川氏が、地方生活者として里山の詩を綴る蔵原伸二郎や木下夕爾、そして一番外周に位置づけて杉山平一の三人を認めてゐる条り、また

「四季派を批判する戦後の人たちの詩も四季的な抒情に近い、というか、それ以上に甘ったるくて単純なものが多い」

と一刀両断するところだけは良かったです。地元の福井贔屓を平気でガンガン出してくるところも面白かった。



 本誌を読ませて下さった青木由弥子氏には、新刊詩集『しのばず』があり、合せて拝読しました。

 日ごろは敬遠してゐる現代詩ですが、久しぶりに快い抒情詩を堪能。小網恵子氏の『野のひかり』以来です。
 繊細な語感の持ち主であること、殊にも五感をたくみに絡ませた暗喩を繰り出すセンス、抒情詩ではあるものの、新しい表現をめざして自覚的に詩を書いてをられることが伝はってきました。
 特に前半に集められた詩篇には、四季派の抒情詩のカタルシス「抑制することに付随して噛みしめられる恢復感」を感じさせる言葉に満ちてゐて、四季派の遺伝子はかういふ所にこそ流れ続けて居るのではないかと思ったことです。


 ここにても厚く御礼を申し上げます。


『詩と思想』2020年11月号 「特集四季派の遺伝子」

対談:荒川洋治×小川英晴/四季派の詩人たちを巡って
座談会:城戸朱理 竹山聖 小川英晴/四季派・現代詩への継承
エッセイ:國中治/「四季」派の遺伝子 〈鳥のいない鳥籠〉を巡るささやかな追跡
小島きみ子/立原道造のメルヘンについて 見えるものの向こう
布川鴇/「四季」と詩人たち 立原道造の叶えられなかった夢
岡田ユアン/子育ての中でめぐるうた
池田康/四季派についての覚書
鹿又夏実/野村英夫 「四季」の最後期をかざるカトリック詩人
総論:小川英晴 四季派の遺伝子 立原道造を中心にして
ほか

21cm,202p 詩と思想編集委員会発行(土曜美術社)  \1300+税



青木由弥子詩集『しのばず』2020.10 土曜美術社 19.0×15.5cm 101p \2000+税 isbn:9784812025925
 
 
》記事一覧表示

新着順:5/824 《前のページ | 次のページ》
/824